新ルール解説

執筆:3級審判員の越智@AC-Musashiさん

1.主要ルールの改訂ポイント(これまでの確認も含む)

  1. オフサイド

    【ルール】
     選手がどこにいようと、[1]オフサイドポジションに選手がいて、[2]その選手がプレイに積極的に関与しているかどうか、が判断の基準となった。これにより、「いるだけの選手」がオフサイドを取られることはまず100%なくなったと考えてよい。(例:逆サイドで残っている選手など)
     なお、この改訂に伴い、従来あった「関与しているゾーン」という概念はなくなった。

    【審判へ】
     明らかに選手が関与していないことが分かっている場合やGKがボールを処理できる場合を除いては、副審は判断に迷ったときにはフラッグを上げるべきである。その後の判断は主審に委ねられるが、主審はフラッグが上がったにもかかわらずオフサイドを採用しない場合には、取消しの動作を必ず行なうべきである。
     なお、オフサイド取消し(不採用)の動作については特にFIFA/JFAで定められたものはないが、通常慣例的には主審は、「判ったけど、反則は取らないヨ!!」という雰囲気をもって手を挙げて(またはプラス、そこから下ろす動作で)副審に正しいポジションに着くよう指示するのが普通である。
     また、副審側の対応としては、フラッグを挙げても主審が全く気づかないようなケースがあった場合直接そのプレーが得点に係わる場合を除いて、大体1プレーを目安に、正しいポジションまで戻るのがよいかと思われる。
    ※これらについては、試合前の審判団の打ち合わせにおいて確認すべき項目である。

  2. アドバンテージ

    【ルール】
     「ロールバック」すなわちアドバンテージ適用後にプレイを『巻き戻し』して、反則のあった地点からのFKを採用することが可能となった。ただし、ロールバックは1プレイ(約2,3秒)の間に限られる。

    【補記】
     これまで許されなかったロールバックが適用できるようになったことにより、反則を受けた側のチームがアドバンテージの採用によりかえって不利な結果になることをある程度防げるようになった。
     ただし、アドバンテージおよびロールバックの採用は、全て主審の判断に委ねられる。また、反則を犯した選手が警告・退場に値すると主審が判断した場合には、アドバンテージ/ロールバックの採用有無に関わらず、その選手はしかるべきタイミングで警告・退場が与えられる。(例:アドバンテージを採用した場合には、次にプレイが停止したとき、など)

    【審判へ】
     主審はロールバックが可能なのは1プレイ(2〜3秒程度)であることを認識しなければならない(ラグビーのように延々とプレイした後のロールバックは認められていない)。アドバンテージを採用した場合には、決められた動作で(※補足参照)宣言を行なわねばならない。またロールバックを採用した場合には、その旨を選手に伝えることが望ましい。さらに、アドバンテージの適用はみだりに行なうのではなく、原則としてはプレイを続行させた場合と反則が行なわれた地点からのFKと、どちらが得点可能性が高いかを判定基準にすることが望まれる。
    (補足):
     具体的なアドバンテージの動作には「決まり」がある。主審はアドバンテージを採用する場合、両手を前方に広げ「プレーオン」と叫ぶことになっている。

  3. ゴールキーパーに関連する諸種のルール(確認を含む)

    1. 「5秒ルール」

      【ルール】
       GKがボールを手で保持しており、リリース可能な状態になってから5〜6秒以内にボールをリリースしない場合には、相手側チームに間接FKが与えられる。
       これには、GKが手以外でボールをキープしている(例:ドリブル)時間は含まれない。ただし、この場合でもGKがペナルティエリア内でいたずらに時間を浪費していると主審が判断した場合には、遅延行為として警告が与えられる。

      【審判へ】
       ここでの「5〜6秒(または従来からある4ステップ)」は、厳密な時間ではなくおおよその目安として捉えて頂きたい。
       要はこのような「目安」以内で、GKが時間浪費をすることなくボールを速やかにリリースしようとしているかどうかが判断基準となる。
       なお、上記の手でボールを保持していた場合の時間浪費に対する警告を与える必要はなくなった(これは「必ず与える必要がなくなった」ということであり、悪質なケースや繰り返し反則がなされたケースでは警告を与えるべきであろう。)

    2. バックパス

      【ルール】
       味方がスローインしたボールを、GKが手で扱った場合には、相手チームに間接FKが与えられる(改訂)。
       また、従来からのルール通り、フィールドプレーヤーが意図的に足で行なった(バック)パスをGKが手で扱った場合も同様である。

      【補記】
       バックパスは「意図性」が問われるものであり、たとえば味方選手のミスキックが後方にそれたボールや、単に味方選手に当ったボールは通常バックパスとはみなされない
       またルールではヘディングなどによる(足によらない)バックパスを禁じてはいないが、たとえば足元にあるボールをわざと空中に上げてヘディングでGKに渡すようなプレイは「反スポーツ的行為」として罰される。

    3. ボールの手での取り扱い

      【ルール】
       GKがボールを手から放す、しかも他の選手が触れることなく、再びボールに手で触れた場合には、相手チームに間接FKが与えられる。

        【補記】
       上記反則には、GKが4歩動く間以内で行なうボールをバウンドさせたり、空中に放り投げたりすることは含まれない。また、たとえばシュートを手で弾いた後に改めて手でキャッチするといったことも含まれない。
       要は、GKがプレイ可能な状態で手でボールを保持し、それをリリースした(自分の支配下から放した)後に再度手で触れてはならないということである。

    4. GKへの干渉

      【ルール(1)】
       GKが手でボールを保持している場合に、GKからのボールリリースを相手側選手が妨害した場合には、GK側チームに間接FKが与えられる。これにはGKが手以外(足)でボールを扱っている場合は含まれない。

      【ルール(2)】
       これまでルールに明記されていた「キーパーチャージ」という反則(ゴールエリア内にいるボールを手で保持したGKへのチャージ)はなくなった。ただし、GKへの不当な干渉や危険な行為は、上記ルール(1)や12条(反則と不正行為)により罰せられることは言うまでもない。

    5. バックタックル

      【ルール】
       後方からのタックルは、相手選手の足にほとんど触れずにボールに正しくタックルされた場合を除き、「悪質な反則」として相手側チームに直接FKが与えられる。また、悪質さの度合によって、警告/退場が与えられる。

      【補記/審判へ】
       W杯での「バックタックル=一発退場」ルールが喧伝されているが、ルールとしては必ずしも警告や退場を与えるべきとは言ってはいない。あくまでも反則の程度により警告/退場を与えるべきである。ただし、「悪質な反則」という強調がなされていることに留意されたい。

    6. チャージ

        【ルール】
       正当な方法でのチャージ(自分の肩で相手の肩に当る)であっても、乱暴なチャージは反則として取り扱われることになった。
       なお、ファウルチャージ・バックチャージについては従来どおりである。

    7. コイントス

      【ルール】
       コイントスの勝者は、必ずエンドを取るようになった。キックオフを選ぶことはできない。 なお、PK合戦の場合には、勝者は必ず「先行」となることは従来どおりである。

      【補記】
       まさか、まだジャンケンしてないですよね?(苦笑) ルール第8条により決められていますよ。

    8. 明文化されていない警告・退場時のリスタート

      【ルール】
       ルールに明文化されていないケースにおいて、選手に警告/退場を与えるために主審がプレイを止めた場合には、相手側チームの間接FKによってプレイを再開する。
       たとえば、一時退場した選手が主審の許可なしにピッチに入った場合などがこれに相当する。

      【補記/審判へ】
       上記ルールのケースと、それ以外のケース(例:ドロップボールによる再開)を混同してはならない。各自、ルールブックを再度参照されたい。

    9. 退場を与えるべき反則(行為)の追加

      【ルール】
       ボールが自陣ゴールに入ることを妨げるために、守備側のフィールドプレイヤーが手を使ってボールを止めた場合には、攻撃側チームに直接FK(またはPK)を与えると共に、この守備側の選手は退場となる。
       これには、直接のシュートなどはもちろん、例えば決定的な場面において攻撃側選手が味方に出したパスを手で止めた場合なども含まれる。

2.注意すべきポイントなど(※ルールと解説含む)

  1. 笛の「遅れ」について

     オフサイドルールならびにアドバンテージルールの改訂により、従来よりも主審の笛が「遅れているように思える」場合が増加することが予想される。これは、上記ルール改訂の影響により、主審が「見極めを行なっている」ためであり、決して躊躇したり見落としたりしているわけではない。
     選手においては、従来同様に「主審の笛が鳴るまで」プレイを続行することを徹底するようお願いする。

  2. 一時退場時のピッチへの復帰について

     まず、ここでの「一時退場」とは、怪我によるもの、もしくは用具の交換などを指していることに留意されたい。試合の流れ上で、ピッチを駈け抜けたりボールを取りに行ったりすることや、給水のためにタッチラインやゴールラインを出ること(※正確に言うとまたぐことだが)は含まれない。
     一時退場した選手は、インプレイ中であっても、主審にアピールして許可を得ることによりピッチに復帰できる。ただしピッチへの復帰は、インプレイ中であればタッチラインからに限られる(ハーフウェイライン付近まで戻る必要はない)。アウトオブプレイ時であれば、ゴールラインからもピッチに入ることができる。
     ただし、出血を伴う怪我の場合、もしくは用具交換の場合には、主審(または運用により他の審判)のチェックを受けた後でなければピッチに復帰することはできない。これらの違反については、その選手に警告が与えられる。

  3. 「ダイビング」と遅延行為について

     いわいる「ダイビング」、すなわち選手があたかも相手の反則を受けたかのように倒れたりすることについては、「反スポーツ的行為」として罰せられることがある。これにより、「ダイビング」をした選手には警告が与えられたり、相手側選手に間接FKが与えられる(※判定と適用は主審)。
     また、リスタート(ゴールキック、スローイン、コーナーキック、フリーキックなど)において、必要以上に時間を浪費していると主審が判断した場合には、この時間を浪費した選手に対して警告が与えられる。ただし、プレイはそのまま続けられる(例えば、ゴールキックの場合にはそのままゴールキックを行なう)。

  4. その他(細かいことについて。これ以外はルールブックを参照してください)

    • すねあては必ず着用すること。これは全ての試合に適用される。また、すねあてはソックスで隠すこと。
    • キックオフ・フリーキックにおいては、これまで「ボール1回転分以上の移動」が必要だったが、現在ではちょっとでも動けばOKになっている。
    • コーナーキックのときには、守備側選手はボールから9.15m(10ヤード)離れなければならない。
    • ペナルティエリア内からの攻撃側の間接FKの場合には、守備側チームは9.15m離れていなくてもゴール内のゴールライン上であれば立つことができる。ただし、他の領域については9.15m離れなければならない。
    • ゴールエリア内からの攻撃側の間接FKは、反則のあった地点に一番近いゴールラインと平行なゴールエリアの境界線までボールを後退させてプレースされる。
    • ペナルティエリアは「ゴールライン/タッチラインと平行なラインで囲まれた長方形」であり、ペナルティアークで囲まれた領域はこれに含まれない(※ペナルティアークは、PKを行なうときの「立ち入り禁止領域」を表すためだけに引かれている)。

3.草サッカーでありがちなケースとその対応(審判へのアドバイス)

  1. 子供や犬、または練習中の選手やボールがピッチに入ってきてしまった

     プレイに支障をきたす/危険であると主審が判断した場合には、笛を吹いてプレイを止めてドロップボールでプレイを再開しましょう。
     なお、ドロップボールは、必ずしも両チームの選手を呼んで相対させて行なう(バスケのジャンプボールやアイスホッケーのフェイスオフのように)必要はなく、「常識」に従い迅速にプレイを再開させればよいのです。

  2. 怪我や退場により、一方のチームの選手が7名未満になってしまった

    この場合には、試合は無効試合となるのが原則です。なお、大会ルールや事前の打ち合わせにより最低人数が異なっている場合には、それに従うのが妥当でしょう。

  3. 知らぬ間に選手が交代していた

     これは特にハーフタイムにありがちである。練習試合などではそれほど目くじらを立てる必要はないでしょうが、インプレー中の交代やフィールドプレイヤーとGKの交代については罰するべきです。
    この場合、交代した選手に警告が与えられます。また、そのためにプレイを止めた場合には、相手側の間接FKで試合が再開されます。
     なお、フィールドプレイヤーだった選手がGKと交代し、手でボールを扱った場合には「ハンドリング」の反則は適用されません(※まあ最低限ジャージは交換していないとシャレにならないが…)。

  4. 選手が12人いた

       実はけっこうありがちなケースです(特に後半開始時)。主審はキックオフの前に人数を数える習慣をつけましょう。

  5. ベンチからの暴言がひどい

     草サッカーでは、誰がベンチ(コーチや選手)で誰が観客かわかりづらいものです。まずはアウトオブプレイの時に笛を吹いてプレイを止め、暴言を吐いた人が「ベンチ」なのか「観客」なのか確かめた上で、もしその人が「ベンチ」なのであれば、注意(警告に相当)または退席(退場に相当)を命じましょう。
     退席の場合には、グラウンドから離れた場所まで(例:フェンスの外や駐車場など)移動させることが望ましいでしょう(※なにせ草サッカーには「更衣室」「控え室」なんてないですから…)。

  6. ゴール裏などから指示を出している

     これはベンチ(みんなが集まっているところ)の位置にもよるのですが、たとえばベンチがタッチライン沿いにある場合に、コーチや選手とみなされれる人がゴール裏から指示を出すことは認められません。
     ベンチに戻ってもらうか、または「球拾い」としてゴール裏にいて頂いている場合には指示を出さないようにお願いしましょう。

  7. 試合時間以外に抗議や暴力的言動を受けた

     試合時間とは、前半のキックオフから試合終了まで(後半または延長/PK戦の終了まで)です。この範囲内の場合には、警告・退場(注意・退席)により主審は選手やコーチを罰することができます。
     試合終了後にこのような状況が生じた場合には、主審に警告・退場などの権限はありません。まずは抗議などを受けた場合には、「もう試合は終わっています」等と言って、相手にとりあわないことです。それでも(例えば)試合後に暴力を受けたような場合には、大会などであれば「審判報告書」の特記事項として明記し、大会本部の裁定に任すことになります。
     練習試合の場合には.....まあ二度と試合しない(審判を引き受けない)ことですね(苦笑)。

  8. プレイをめぐって喧嘩になりそう/なった

     まずは、危ないプレイなどがあったら、とにかく大急ぎでその地点に向かいましょう。そして身体を張ってでも止めましょう。審判の義務は選手を罰することではなく、試合をコントロールすること=この場合はトラブルを防ぐことです。

  9. その他のアドバイス(※個人的経験から)

    • 明かな単なるボールアウト(スローインやゴール/コーナーキック)などでは、笛をいちいち吹かないほうがスマートに見えます。ボールが出るかでないかの時や反則のときなどに限定して吹いたほうが分かりやすいです。
    • よいポジション取りのため、きちんと動きましょう。ちゃんと走っている主審には選手も信頼を寄せてくれます。
    • ポーカーフェイスと(原則として)無言であることを保ちましょう。
    • あいまいな判定や、自信なさげな笛はやめましょう。信念を持って強く笛を吹きましょう。1試合に数百回あるといわれている判断においてノーミスはありえません。それよりも確信を持った判定を示すことが重要です。
    • 簡単でもいいから、試合前に副審とは打ち合わせしましょう。
    • いちいち判定への不満を気にかけていたら身が持ちません(笑)。受け流すべきは受け流し、明かな侮辱や不服には毅然と対応しましょう。
    • 勇気を持って、カード(警告・退場)を出すべきところは出しましょう。

 その他の細かい運用規則(例:PKなど)については敢えて省略しています。 各自、ルールブックやJFAからの通達などを御参照下さい。

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